「学習障害」という用語を最近、耳にされたことのある方も多いかと思います。今回は「学習障害」について書いていきます。
「学習障害」とは、「発達障害」の一つとされ、文科省の定義では、「基本的には全般的な知的発達の遅れはないが、聞く、話す、書く、読む、計算する、または推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。」とされています。
ここでポイントとなるのが、「知的発達の遅れ」がないということです。ですから、学習障害の子どもはいわゆる通常学級に在籍しています。日常生活では、一見その子どもが障害があるように見えないばかりか、学習の場においても、知的な遅れがないために、学校の先生は初めはその子どもが学習障害であることに気がつかないことが多いです。
実際、私も公立学校教員時代、何人かそのような生徒に出会いました。
実際私が経験した一例を挙げます。Aさんは勉強も運動も頑張り、とても気立てがよく、素直な生徒です。教師の指示には笑顔で明るく素直に従います。しかし、授業中、私が黒板をノートに写すようクラス全員に指示したところ、Aさんはノートを写すどころか、筆記具さえももちませんでした。そこで、私はAさんにに他の子への配慮もしつつ、改めで板書の指示を出しました。すると、ニコニコしながらすぐにペンをもちあげ、とてもゆっくりとおぼつかない様子で黒板をにらめっこしながらノートに字を書きました。ニコニコは次第に消えて、周囲の子どもの何倍も時間がかかるのがわかりました。字形も正しくは取れていない字も多かったです。結局、Aさんは終業時までに書き写すことはできませんでした。
この体験は、私にとって一種の衝撃だったのを覚えています。というのは、Aさんは素直に私の指示にしたがったのですが、Aさんにとっては、「黒板を写すこと」「ノートに字を書くこと」がこの上ない苦行であると見て取れたからです。
それ以降、私は授業の中で、Aさんの得意な能力で、苦手な部分を補うという方法を考えました。当時、タブレットが一人一台ようやく配布され始めたのもあり、黒板をノートに写すかわりに、タイピングするよう提案しました。周囲の子どもの理解もあり、その子どもはそれ以降は、楽しみながらタイピングをするようになりました。
上記のこどもは、「学習障害」の中でも「書字障害(ディスグラフィア)」と言われます。視覚認知能力が弱かったり、ワーキングメモリー(短期作業記憶)が弱かったり、漢字を全体として捉えるため、部首の組み合わせを覚えるのが苦手です。また、腕や肩の粗大運動や手指の微細運動にどこか問題を抱えていることも考えられます。
みなさんにどうかわかってほしいのは、学習障害の子どもは、最初は「怠けている」、「努力が足りない」などと見られやすいのですが、決して、彼らは怠けてもいませんし、努力が足りないわけでもないのです。例は適切かは自信はありませんが、例えば、「今から黒板のアラビア語を間違えずにノートに全部書き写しなさい。」と言われたらどうでしょうか。ペン先の一画一画に力が入り、途方もない作業になるだろうことは容易に想像がつきそうです。全て書き写すのにはとんでもない時間と労力が必要です。ぜひ、「障害」に対する正しい理解を少しでも多くの方々にしていただけたら私は嬉しく思います。
次回は、「学習障害」のある生徒への支援方法について話をします。